――まずは山寺さんが感じる、『ユア・フォルマ』という作品の魅力を教えてください。
まるで上質な海外ドラマのようなクライムサスペンスでありながら、エチカとハロルドの揺れ動く関係性もしっかりと描かれているところが一番の魅力だと思います。今回、お話をいただいた際に、作品の詳しい設定や世界観、アニメのコンセプトなどが書かれた企画書をいただいたんです。普段は声優がそういった資料をいただけることってなかなかないので、この作品に対するスタッフの気合を感じました。
――台本を読んだ感想を教えてください。
いただいた企画書の中に人物相関図があったのですが、「あれ、これは大変な役なんじゃない?」と思って(笑)。ナポロフというキャラクターを掴むために、台本よりも先に菊石まれほ先生の原作小説を読ませていただいたんです。登場人物たちの心情を非常に細かく描かれていて、引き込まれましたね。深夜の2時、3時まで本を読む手が止まらなくなってしまいました。それと同時に、この物語をいったいどうやって映像化するんだろうとも思いました。例えば、<ペテルブルクの悪夢>の凄惨なシーンはどうするんだろう?とか。その後、台本を読んでみたら、「そのまま描くんだ!」と思って。すごくビックリしましたね。
もちろんアニメーションですから小説の中にあるセリフすべてを入れることは難しいですけど、台本を読みながら「そうか、ここはこういうふうに繋がっているのか」と理解していきました。台本に書かれてない行間を原作で埋めることができたのは非常に助かりましたね。原作と台本の両方から、ナポロフというキャラクターを作っていきました。
――そんなナポロフを演じるうえで、山寺さんが意識したことは?
ナポロフは非常に複雑な過去を持っていて、彼が<ペテルブルクの悪夢>の事件を起こした心理もいろいろと複雑なのですが……結局、演じるときにはそれらを一切忘れるのが大事だなと思いました。観ている方に真犯人であることを悟られてはいけないのはもちろんのこと、あの有能なエチカとハロルドも犯人の正体にずっと気づかないわけですから。癖のある登場人物が大勢出てくる中で、ナポロフって一見するともっともノーマルな人物なんですよね。冷静で、広い視野を持っていて、部下思いで、なんだったらソゾンよりも心が広くて。そんな“善良な警部補”というイメージそのままに演じようと思いました。
でも、数々の伏線が張り巡らされている作品なので、後々に頭から観返した方が「矛盾している」と感じることがあってはいけません。例えば、ソゾンが殺されたと聞いたときのナポロフの“悔しい”という感情は、その時点では「有能な部下が殺されて悔しい」という感情に見えるけど、第13話でエチカが電索したときに、裏側にいろいろな感情があったことが明らかになるという作りになっていました。ですので、最初は裏側の感情があると思われてはいけない。けれども、ネタ晴らしのときに矛盾を感じさせないような悔しさを表現しないといけないな、と。今回はそういう細かいところまで考えてやっていましたね。尾崎隆晴監督がどう見せたいと考えているのかも相談をしながら、どうやって声を当てれば視聴者を騙しながらも、1㎜だけ「ん?」と思わせることができるか。視聴者とミリ単位の駆け引きをできることがとても楽しかったです。
――ナポロフが登場した第9話から第13話で、特に印象に残っているシーンは?
やはり第12話でエチカやハロルドと対峙するシーンですね。ナポロフが<ペテルブルクの悪夢>の真犯人であることがわかるあのシーンをどう演じるかを、最初からずっと考えてきたので。ただ、彼の本性はあくまでも第13話でエチカが電索したときに初めて見えてくるものなので、第12話の時点では狂気を前面に出さないほうがいいなと思いました。ナポロフ自身、「自分はその衝動を止められないんだから仕方ない」という考えであって、自分の行いをやましいものとは思っていませんし、いたって冷静で、理路整然と。
続く第13話の、エチカが電索で潜るシーンも印象に残っています。あそこでナポロフの周囲との関係や過去が明らかになり、事件の謎もすべてではないにしろ大体のことが明らかになりました。まさかの大逆転で、ソゾン殺しの犯人はナポロフではないということも――。じゃあ犯人はいったい……?という話ですよね。この先の物語がとても気になりました。
あとは、エチカとハロルド2人の関係性がこの作品の大きな見どころなので、ナポロフに復讐しようとするハロルドをエチカが止めるシーンも印象的でした。今回、僕はスケジュールの関係でほかの皆さんと一緒に収録することができなかったんですが、そのシーンの花澤香菜さんと小野賢章くんの演技を聞いたときは非常に感動しましたね。アニメ史に残る名シーンになるんじゃないかと思ったくらい。そんな素晴らしい役者である二人を陥れる犯人役がやれたことが光栄でした。
――ちなみに、もし山寺さんがエチカのように誰かの機憶にダイブできるとしたら、誰のどんな機憶を覗いてみたいですか?
自分に関わる人が自分に悪い印象を持っていたら怖いので、身近な人にはダイブしたくないですね(笑)。強いてあげるなら、大谷翔平選手の記憶は疑似体験してみたいなと思います。高校時代やWBCで優勝したとき、50-50を達成したときなどに彼がどんなことを考えていたのか、見てみたいです。大谷選手は岩手県出身なので、僕も同じ東北出身として勝手に親近感を持っているんです。いつか大谷選手が東北楽天ゴールデンイーグルスでプレーする姿を見てみたいです!
――最後に、『ユア・フォルマ』を最終話まで観てくださった皆さんへ向けてメッセージを!
アニメ『ユア・フォルマ』、楽しんでいただけましたでしょうか? 非常にやりがいがあるナポロフというキャラクターを演じることができて嬉しかったです。もし小説をまだ読んでない方は、より深くこの作品について知ることができると思うので、ぜひ読んでみてはいかがでしょう。そして、そのあとにもう一度アニメに戻ってきてみてください。さらに楽しめること請け合いです。