――まずは、尾崎監督が感じる『ユア・フォルマ』という作品の魅力を教えてください。
『ユア・フォルマ』はSFというルックを持ってはいますが、その実、とても現代的な作品だと思います。例えば、作中に描かれる電脳世界はスマホの機能を頭の中に入れているようなものですし、ハロルドのような人間の生活を手助けするAIも人型ロボットではないにしろ、我々の社会にも既に存在しています。皆さんが今気になっているであろう社会のテーマが巧みに取り入れられたわかりやすい世界観になっていて、その面白さが作品の魅力の一つだと感じました。そして、そんなSF的な世界観の中で繰り広げられる普遍的な人間ドラマこそが、この物語の根幹であり、もっとも大きな魅力だと思っています。
――そんな本作を1クールのアニメにするにあたって、尾崎監督が特に大切にしたいと考えたポイントはなんですか?
今の話とも繋がりますが、この作品で何を描きたいのかといったら、やっぱり“人と人との繋がり”なんですよね。ですので、SFというよりはヒューマンドラマに重きを置いて描くことを一番大切にしたいと思いました。この作品には<アミクス>と呼ばれる人型のロボットが登場しますが、僕はあえてロボットだとは思わずに、「登場するのは全員人だ」という気持ちで作っているんです。人間って相手がロボットや人形、物や自然にも、すべてに「心がある」と考えたりすることもあるじゃないですか。例えば、チャットAIと会話するうちになんだか親しみを感じるようになったり。その“心”というものが存在したときに、お互いを繋げるものはなんなのか――そこに対して、一つの方向性としての探りを入れていきたいなと思っています。
――アニメ化にあたって原作の菊石先生からはオーダーはありましたか?
菊石先生はよくアフレコを見学しに来ていただいたり、制作に快く協力してくださって本当にありがたかったです。基本的にはこちらに委ねていただいていて、大きなオーダーはあまりなかったと思いますね。ただ、原作が小説でビジュアルがないので、SF的なアイテムについてはいろいろとアドバイスしていただきました。例えば、原作ではユーザーインターフェイスで見える立体像のことを「ホログラム」と言っていて、通常の人間に目に見えるスクリーンのことは「ホロブラウザ」と呼んでいるのですが、僕は最初それらを混同してしまっていて。菊石先生にアドバイスいただき、区別することができました。
また、この作品はいろんな国が舞台になるので、それぞれの国の習慣も細かく気にされていたと思います。きっと原作を書かれたときに丁寧にリサーチされていたんでしょうね。国ごとの習慣の違いはなかなか難しいポイントで、例えば、「ロシアの人は右手に結婚指輪をする」など、日本とは違う習慣は油断すると間違ってしまいがちです。我々アニメ制作チームも現地へ取材に行けたらよかったのですが、ここ数年、世界情勢が不安定だったこともあり、今回はインターネットなどで情報収集もしつつ作業していました。
――今作の主人公バディである、エチカとハロルドの魅力を教えてください。
人間だけれども非常に機械的なエチカと、ロボットなのに誰に対してもフレンドリーなハロルド。一見すると真逆な二人ですが、実は共通しているところがあって、二人とも自分の本音や内心を人に伝えることがすごく下手なんですよ。今回のドラマの中でも、二人は何度もすれ違いながら、最終的にお互いの本心がなんなのか知っていきます。そういう不器用さが愛らしさであり、二人の魅力にもなっていると思いますね。
――エチカ役の花澤香菜さんと、ハロルド役の小野賢章さんのお芝居についてはいかがですか?
小野さんは普段から優しくてフレンドリーな口調で話しているイメージがあったので、最初からピッタリだなと思いました。逆に、花澤さんは、自分の中だと、エチカのような内向的で不器用な役をやられているイメージはあまりなかったんです。しかし、実際に演じていただいたら、感情のボリュームを素晴らしく表現してくださって、さすがだなと思いましたね。声を抑えつつ感情をあふれさせる芝居もよかったですし、何気ないエチカとハロルドの会話もすごく魅力的で。ハロルドがちょっとしたいたずら心でエチカをおちょくるような問いかけをして、エチカがそれに答えているというような、二人の自然な会話にもぜひ注目していただけたらと思います。