――まずは花澤さんが感じる、『ユア・フォルマ』という作品の魅力を教えてください。
『ユア・フォルマ』は「人々の脳内に『ユア・フォルマ』という情報端末が埋め込まれていて、何か事件が起きると警察はそれを頼りに捜査していく」という世界が舞台になっていますけど、原作を読みながら、そんな未来が実際に来そうだなと思いました。ハロルドみたいな高性能ロボットも本当に生まれそうですし、身近に感じられる題材でとてもワクワクしましたね。ただ、すごく便利な社会に見えるけど、自分のすべてを機械に知られたり、ほかの人に記憶を見られたりするのは怖い部分もあるなと考えさせられもしました。だって、誰にも見られてないと思って台所で食パン1斤をむさぼり食べた記憶まで見られちゃう可能性があるってことじゃないですか! それ、めちゃくちゃ怖くないですか⁉(笑)そんな想像が膨らむような設定が、すごく面白いなと思います。
あとはやっぱり、エチカとハロルドの関係性ですかね。エチカは人間とAIが共存できると思っている人ですけど、ハロルドの機械である一面を見て傷ついたり、どこまで彼を信じていいのか悩んだり……。人間とロボットではありながらも、そういう繊細なやり取りを繰り広げながら二人の絆がどんどん深まっていくところも、この作品の魅力だと思います。
――ご自身が演じるエチカについては、どのような人物だと感じていますか?
エチカちゃんは本当に不器用な子ですね。ハロルドはとても饒舌で、人の顔色も伺いながら会話を進めていくけれど、エチカちゃんは内省的な性格だし、素直じゃないし、人間関係の面では真に受けなくていいようなことを真正面から受け止めてしまったりもして。自分の仕事に誇りを持っていて、バリバリ働いてはいるけど、一方で少女の一面も残していて、すごく人間らしい子だなと思います。ときどき「もう少し言い方考えなよ!」「もうちょっとうまくやりなよ!」と思ったりもしますが(笑)、私自身もそんなに器用な人間ではないので、演じていて共感する部分もたくさんありました。
――では、エチカの相棒となるハロルドに対する印象はいかがですか?
ハロルドは……いけ好かないですね~(笑)。めちゃくちゃかっこいいし、言動もスマートで、ビガみたいに好きになってしまいそうだと思うんですが、知らない間に操られてしまいそうな底知れなさもあって、身近にいたらドキドキしちゃうと思います。基本的にはいい人なんですけどね。彼も物語が進むにつれて少しずつ変わっていくので、その変化はぜひ注目していただきたいです。過去に大変な経験をしていて、それを思い出すとものすごい顔になったりと、第1話の段階でまだ見えていない一面がたくさんあるので、ぜひ楽しみにしていてください。
――第1話で、特に花澤さんの印象に残っているセリフやシーンはどれですか?
私は最初に原作を読んだときに、電索のシーンがアニメでどうなるのかがすごく気になっていたんです。実際に映像を観たら、ものすごく神秘的で美しい世界が描かれていて。まさにこの作品を映像化した意味の詰まったシーンになっていたと感じました。きっと、尾崎隆晴監督が原作の菊石まれほ先生とすり合わせてこの世界観を構築していったんでしょうね。菊石先生はアフレコもたびたび見に来てくださってうれしかったです。
――アフレコ現場の思い出も教えてください。
第1話のアフレコは一番難しかったかもしれません。今回のアニメは第2巻から物語がスタートする構成になっているので、ハロルドとの心の距離感は少し悩んだ部分ではありました。軽口は言い合えるけど中身を全部さらけ出しているわけでもないという微妙なさじ加減や、お仕事になるとキリッとするところの塩梅は丁寧に演じていきました。
――スタッフの方からは何かディレクションはありましたか?
全体的な芝居の方向性については大きなディレクションはなく、割とスムーズに進んだ気がします。ただ、「エ(→)チカ・ヒエダ」か、「エ(↑)チカ・ヒエダ」かという、イントネーションはすごく話し合いました。キャスト内では「“(ファッションブランドの)ジュンココシノ”と同じじゃない?」「待って、“ジュンココシノ”はどういうイントネーション⁉」と盛り上がっていましたね(笑)。この作品、ロシアの人名や地名が出てくることが多いんですが、普段言い慣れないワードなのでみんなけっこう苦戦していて。そもそも「ヒエダ」や「ハロルド」の発音が難しいんですよ。大事なところで噛んでしまって、「悔しい!」と自分の太ももを叩くこともよくありました(笑)。
――ありがとうございました。ちなみに、もし花澤さんがエチカのように誰かの機憶にダイブできるとしたら、誰のどんな記憶を覗いてみたいですか。
私、初めてパンにバターを塗った人や、卵サラダをパンに挟もうと最初に考えた人を天才だと思っているんですよ。だから、その人たちの中に入ってみたいですね。多分、食べた瞬間に、「え……美味しすぎない? 俺、天才?」ってなったんじゃないかな。パンと相性のいいものを見つけた人たちの頭の中を覗いて、私もその快感を味わいたいです!
――最後に、今後の展開を楽しみにしている皆さんに向けてメッセージを!
一度、尾崎監督に「どうして原作の第1巻からやらずに、第2巻からにしたんですか?」と聞いことがあったのですが、尾崎監督は、ここからの事件の面白さがあるからだとおっしゃっていたんです。「1クールのアニメとして『ユア・フォルマ』の物語を描くことを考えたときに、エチカとハロルドがバディになった段階から進めていくのが最善だと思った」と。それを聞いて、なるほどなと思いました。今後も一筋縄ではいかない事件が次々に起きていきますし、キャストも豪華な方たちがどんどん出てきますので、楽しみにしていてください。そして、アニメで『ユア・フォルマ』に興味を持ってくださった方は、ぜひ原作も読んで、エチカとハロルドの出会いの物語から楽しんでいただけたらと思います。