尾崎隆晴監督 オフィシャルインタビュー【後編】


――第12話で、ついに<ペテルブルクの悪夢>の真相が明らかになりましたね。第12話を描く上で意識したことを教えてください。

第12話は、ナポロフというよき上司が実は……という流れでしたので、豹変したときの性格のコントラストを大きくつけたいと思っていました。これまで隠されていた彼の暴力性や変態性、異常性を、表情や行動で強調するようにしています。急に怒鳴り散らすのではなく、ジワジワとピークに上がっていく感じの怖さといいますか。ナポロフ役の山寺宏一さんもこちらの意図を理解して素晴らしいお芝居をしてくださって、ありがたかったですね。また、ナポロフの山場となる第12話からエチカとハロルドの山場になる第13話への繋がりも、非常に意識したところです。

――絵作りの面でこだわった点、意識したことを教えてください。

キャラクターに関しては原作の挿絵をベースにしつつ、うまくアニメに落とし込むバランスを取りたいなと思っていました。世界観については、電索世界と現実世界を色の彩度で大きく分けるというのがこだわったところですね。現実世界は現代っぽい画面にしたかったので派手な色はあまり使わず、あえて彩度を落としているんです。でも、逆に電索シーンでは極端に彩度を上げていて。現実とは異なる極彩色の世界が広がるという一つの衝撃を印象づけたいなと思っていました。

――電索シーンの映像化について教えてください。

原作にあった挿絵を出発点として、僕の中にあったイメージを交えて膨らませていきました。電索の世界観は、クラシックなサイバーパンク調の電子的な世界と、夢や心を表現する上での幻想世界という二つの柱を交互に使って作っていきました。人間の脳の中を描くという意味では、電気的な要素と生物的な要素の融合が大事だと思っていて。もともと人間の脳の信号って電子的なものじゃないですか。それをさらにほかの人の脳と電気的に繋ぐというのが面白い発想だと思ったので、それが発想の一つのポイントになりましたね。音楽も、スピーディーな展開を持ちつつ、世界観を表現する情景や、人間の心を表現する情緒の部分もしっかり組み込まれた曲を作っていただけて、ありがたかったです。

――これまで大きく4つの事件が描かれていましたが、それぞれに関してのこだわりや制作の裏話を教えてください。

エピソードは4つあるんですけど、そのすべてが同じテーマを違った形で表現しているという印象が僕の中にはあるんです。それは「心と心の繋がり」というテーマ。エピソードごとに異なる関係性が描かれていて、最初のエピソードだとレクシーとファーマンの一方通行な恋愛的な要素――これは心と心の繋がりがうまくいかなかった例ですね。次は、ビガとダネルという親子と、ライザとユーグの兄妹という、家族の関係です。どちらもお互いに思い合っているのに、外部的な要素でその関係性が壊れてしまうという悲劇的な事例でした。その次はハロルドとソゾンの、他人だけど近しい関係性。そしてラストで、エチカとハロルドの関係性に繋がっていくという流れになっているんです。役者さんも、それぞれ、登場するキャラクターに合わせた演じ方をしていただきました。
裏話でいうと、エチカ役の花澤香菜さんが第11話の収録のときにポロッと「私、来週が怖いです」とおっしゃっていたのが印象に残っていますね。第12話ではエチカがナポロフにボコボコにされるからそれが怖いということだったと思うのですが、僕はそれを聞いて、花澤さんが本当に自分とエチカを重ねて演じてくれているんだと感じて。フィクションのキャラクターではありますが、それだけ気持ちを入れて命を与えてくれていることがとてもうれしかったです。

――ありがとうございました。最後に、第13話の放送を楽しみにしているファンに向けて、見どころを!

第12話ではアクション的なクライマックスを描いたので、第13話ではエチカとハロルドの心の繋がりのクライマックスを持っていこうと思って、その流れは非常に大切にしました。ただ、正直に言うと、シナリオの段階では第13話はすごく不安だったんですよ。第13話にドラマのピークに何を持っていこうか、本当にこれでいいのだろうか、と。でも、コンテを描く中でそれがだんだんと膨らんでいって、最終的にはエチカが持つ最大の“武器”とハロルドとの心の繋がりをうまく落とし込めて、自分としてもすごく気持ちのいい演出ができたなと満足しています。これはもう関わってくれた皆さんのお力のおかげですし、何よりも素晴らしい原作があったからできたことですね。僕にとってもこの『ユア・フォルマ』は特別な作品になりました。
最終話はエチカとハロルドが<ペテルブルクの悪夢>を巡り、お互いの信念を貫くための判断をしなければいけない場になります。その結末は……ぜひ放送でお確かめください。